少年の日のアイスクリーム
僕が生まれ育った高知市に昔、オリンピックという名のパーラーがあった。
僕の街からは少し遠かったけれど、夏の暑い日、僕たちは自転車に乗ってアイスクリームを買いに行った。 高知ではアイスクリンという原始的なアイスクリームが全国的に有名だけど、オリンピックのアイスクリームはアイスクリンとは全然味が違っていた。初老のおじさんが一人で営んでいる店だが、おじさんはいつも楽しそうにアイスクリームをコーンに載っけてくれたものだった。
太陽の光で溶け始めたアイスクリームをなめなめ自転車を走らせて自分の街に帰るのだ。
なにしろ味のことだから何がどうとは言えないが、独特で濃厚なその味に僕たちは参っていた……。
吉祥寺の中道通りにF&Fと言う名のステーキハウスがある。
ある日、僕は一人この店のカウンターに座っていた。
ステーキはそこそこうまかったのだけれど、デザートのバニラアイスクリームに目を見張った。
あのオリンピックのアイスクリームの味がしたのだ。
「このアイスクリームは自家製?」
僕はウエイターに尋ねた。
ウエイターは答える。
「いえ、どこかのメーカーのものだと思いますけど……」
食事を終え、料金を支払いながら、僕は再び訊ねてみた。
すると奥から主人が姿を現した。
「いえ、昔僕が好きだったアイスクリームに味がとても似ていたものだから……」
「わかります」
主人は微笑んだ。
「今のアイスクリームは牛乳が多いんですね。ですから濃いようでいて実はサラッとしているんです。昔のアイスクリームは卵が多くて濃厚だったんです。おっしゃるのはそのアイスクリームのことだと思います」
主人が吉祥寺で店を開く前にやっていた店の近くにナポリアイスクリームがあった。
ナポリアイスクリームの社長と懇意だった主人は特別なアイスクリームを作ってもらったのだという。
「人気があって今では定番商品になっているんですが、残念ながらお店用で市販はしていないようですね」
時々僕は少年の日のアイスクリームを味わうため、F&Fに行く……。
1 Comments:
ステーキの後じゃないと食べられないっすけど、そのうちおいで下さい吉祥寺に……。
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