カリブの旅2 セント・トーマス島
ドシンという音と振動で目が覚める。目覚まし時計は午前6時を指していた。音と振動は最初の島、セント・トーマスに着岸した音だった。
僕は3ドルの乗り合いタクシーに乗ってダウンタウンに出かける。南欧風の造りの街だが、スペイン領だったサンファンとはあきらかに雰囲気が違う。かなり奥まで歩いて入ってみたが貧しい感じはあまりしない。
僕は一日中、写真を撮って過ごした。
半分クローズドした小さな市場……、そしてローレックスを始めとして高級ブティックが並ぶメインストリート。みんなレイジーで明るかった。僕もきりりと冷えたピナコラーダを飲み、レイジーに過ごす。
最後に裏町で少年の写真を撮った。とても可愛い少年だった。歩いている僕の前に突然小さなカフェから飛び出してきて、「ハーイ」と手を振ってきたのだ。 カメラを構えるとニコリと笑う。「オーケー、キュート・ボーイ」と言いながら写真を数枚撮り、少年と手を振って別れ、船に帰るつもりで歩き出す。
僕の背中に、「ヘイ!!」、と女性の声が飛んできた。アメリカ本土なら無視するところだが、ここは本土ではない。私は振り返える。
初老の黒人女性が立っていた。
「何故あんたは街の写真を撮って回っているんだい?」、と尋ねる。
どうやら写真をあちこちで撮っている東洋人の噂が広まっているらしかった。
僕は慎重に考えながら答える。
「ここは日本から遠いからね。多分、僕はここに二度と来られない」
僕はカメラを指して言った。
「これは僕の記憶なんだよ」
女性は頷いて言った。
「日本は遠い。とても遠い」
僕の言葉に、彼女は納得したらしかった。そして尋ねた。
「この島は好きかい?」
僕は答える。
「良いところみたいだね。で、あなたはここが好きかい?」
と訊き返した言葉に女性は答えた。
「そりゃそうだよ。グアドロープ(翌々日に訊ねるフランス領の島である)からやってきてもう30年も住んでいるんだからね」
彼女は僕にさよならと手を振って、通りかかった駐車場に入っていった。
後ろ姿を見送り、港まではかなりの距離があったけれど、歩けるところまでぶらりと歩くことにする。
途中、小さなシナゴーグ(ユダヤ教の教会)があった。
カメラを片手に中を覗く。質素だけれど、清楚なたたずまいをしたシナゴーグだった。
シナゴーグの床一面に、祖国を失って世界に散っていったユダヤ人たちを象徴する砂が撒かれている。僕はそっとシャッターを押した。
船の旅は人を内省的にするようだ。
1 Comments:
リルさん
いつも読んでくれてありがとう御座いますね。
クルーズは馴れないと戸惑いますが、馴れてしまうと良いもんです。
ハワイ、東南アジア×2、エーゲ海、地中海×2なんてのがあります。写真も一杯あるんで頑張ります(笑)。
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