サハラ・砂の海へ~チュニジア1
深夜、一人で酒を飲みながら時折、ガラス瓶の中に入っている赤い砂を掌に落としてみる。
砂は音も立てずまるで漂うように、掌に落ちていく。ひんやりとした感触だけが掌に訪れる。
砂漠にはセイレーンが住んでいるのだと思う。
たとえ一度だけでも、彼女の声を聞いた者は一生そこから逃れられなくなるのだ……。
トヨタ・ランドクルーザーは車体を激しく揺らしながら、ショット・エル・ガルサの荒野を疾走した。
砂漠とは日本人が想像するような砂丘だけではない。
石の砂漠もあれば、単なる荒れ野を指している場合もある。
普通の日本人がイメージする、まるで砂の海が広がっているような砂漠はデューンと言う。
チュニスに着いたのは数日前の夜だった。これでチュニジアは4回目の訪問となる。
チュニスのメインストリート、フランス門通りの近くのビジネスホテルが用意されていた。
フランス門の名前でわかるが、フランス支配時代の面影が色濃く残る通りだ。
フランス風のカフェがあり、エスカルゴなども商うチュニスの台所とも言うべき中央市場もここにある。
『チュニジアの夜』というアートブレーキーのジャズナンバーを思い出した僕は、深夜チュニスの街に足を踏み出してみた。
ソフトイスラムの国とはいえ、どこでも酒が飲めるというわけではない。さんざんバーを探したあげく、たどり着いたのがあまりにもつまらないバーだったので、ビール一本で引き上げるというありさまだった。
翌日は迷路のような旧市街を、かつてのカルタゴのそしてローマ帝国の夢の跡を、
そしてパウル・クレーの愛した街を彷徨う。